◇被害の不安、現実に
勝山市野向町聖丸のデイケア「野向の舎」で、女性看護師がクマに襲われ大けが－－。山間の木の実が不作で、飢えたクマの出没が急増している今秋、県内で 初めてけが人が出た。１２日、クマを閉じ込めた施設内部からは、つめで何かを引っかくような音が聞こえ、施設や隣接する病院の関係者は「まさかこんな所 で」と震え上がった。大野市の住宅街でもこの日、クマが１頭射殺された。【酒造唯、橘建吾、安藤大介】
デイケア長の池端定男さん（５４）や勝山署によると、けがをした看護師は午前７時ごろ出勤し、正面玄関の鍵を開けて入り、車椅子を準備していたところを 襲われた。両手で押しのけて抵抗し、血だらけになって病院の玄関まで逃げ、事務員に助けを求めた。池端さんは「近くでクマが見つかることはあったが、中ま で入ってくるとは」と表情をこわばらせた。
その後、他に４人の病院職員がクマを目撃。施設と病院をつなぐ通路でクマが突進してきたため、病院の別の女性看護師が扉を閉めた。クマは「ドン、ドン」と扉に体当たりしたという。その後、防火扉も閉めてバリケードを築き、１３５人の入院患者を守った。
現場では、猟銃を持った県猟友会勝山支部のメンバーや、麻酔銃を持った県自然保護センター職員、勝山署員が午前１０時過ぎから施設に入ってクマの居場所 を約２時間探った。しかしクマが隠れられる場所が多く、県が危険と判断。午後２時ごろ、市職員が施設内にハチミツや酒かすを入れた捕獲用のわなを仕掛け、 勝山署員らと施設周辺を警戒した。
内部の様子について猟友会の久保達夫さん（６４）は「足跡があり、紙コップや品物が散乱していた。風呂場の方に向かったようだ」と話した。
◆小学校では
現場から約３００メートル離れた同市立野向小では同日、校舎１階を施錠し、給食のにおいでクマが寄りつかないように換気扇を止めた。同校は普段から集団 登下校をしているが、学校は保護者に車での送迎や付き添いを求めた。市教委によると、市内の９小学校でグラウンドでの体育など野外活動を取りやめた。調理 室などの施錠、集団登下校、保護者の送迎の徹底なども指導している。
◆出没・捕獲急増
県は急きょ、今秋２回目のクマ対策緊急会議を開き、各市町、県警などの担当者と情報交換した。山間の医療機関への注意喚起や、道路や河川の見回り職員が 目撃した情報を共有するなど、対策を申し合わせた。県のまとめによると、９月のクマ出没件数１００件（前年度６件）、捕獲件数１２件（同０件）と前年度を 大幅に上回った。１０月は１１日までに出没件数４３件（同４件）、捕獲件数１５件（同０件）と急増している。
勝山市によると、今年度の市内でのクマ目撃件数は１１日までに５１件、痕跡情報は３６件と、前年度（目撃１０件、痕跡１件）を大きく上回っている。
◆大野では住宅地
勝山市に隣接する大野市では同日午前１０時２０分ごろ、同市茜町の住宅地で男性がクマを目撃し、市に通報した。その後も目撃情報があり、午後２時半ごろ同市新庄の民家の庭にいるクマを市職員や猟友会メンバーが発見、射殺した。クマは体長約１３０センチの雌だった。

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